愛のない部屋
控え目な有名ブランドのロゴ入りの長財布。黒色のそれを開ければ、1万円札と5千円札が覗いた。
申し訳ない気持ちで、峰岸の財布から支払いを済ませる。
「ありがとうございました」
店員のお決まりの挨拶を背に受けながらカゴを持つ。
「手伝う」
タイミングを見計らったように近付いてきた峰岸は、袋詰めを手伝ってくれた。
「本当に全額支払ってもらって良いの?」
せめてデザートのケーキやエクレアは私が払うべきじゃない?
「お礼なら、明日の餃子でお願いします」
「本当にそんなので良いの?」
「うん」
2つの袋を両手で握り、さっさと出入口へ向かってしまう。
「ちょっと、持つよ」
「重いから良いよ」
「なら尚更……」
袋を取ろうとして、
峰岸の手に触れた。
そのことに驚いて、
思わず手を引っ込める。
「……」
たかが手が触れただけなのに、なにやってるんだろう私は。
峰岸の方を見ると、苦笑していた。
「車まですぐだから大丈夫だよ」
そう言って配慮して貰うくらい、私は面倒な女だ。