愛のない部屋
そのまま無言で車に乗り込む。
峰岸は後部座席に荷物を置いてから、運転席に座った。
「そんなに俺のことが嫌い?」
発車させる前の一言に、峰岸を見る。
堅い表情。
いや、困った顔にも見える。
彼はそれ以上、なにも言わずに返答を待っているようだった。
「どうしてそんなこと聞くの?さっき、私が不自然な動作をしたから?」
「うん」
短い返事。
触れ合った温もりをを払いのけるように手を引いたことは峰岸が嫌い、そんな理由じゃないのに。
なにを勘違いしてるんだか。
「他の誰か、でも同じなの」
窓から見える、カップルに目をやる。
車までの短い距離を腕を絡めて歩く姿は羨ましくもある。
「昔から、幼い頃から。人と上手く接することができなくて。他人の体温を拒む癖があるみたい」
重い話にならぬようすらすら述べる。
「アンタが、嫌い…だからじゃない」
「じゃぁ好きか?」
この流れでそんな台詞をよく吐けるものだと感心。
ただ峰岸の目は笑っていたから、
彼もまた重い話にならないようにおちゃらけてくれたのだろう。