愛のない部屋
あ、そうだ。
ビールを一口飲み、鞄を引き寄せる。
篠崎さんから手紙を預かったことをすっかり忘れていた。
「篠崎さんから、預かったよ」
「手紙?」
「ラブレターじゃない?」
椅子に再度腰かけた峰岸は頬杖をついてこちらを見た。
「ラブレターとか興味ない。そのまま篠崎に返して」
「そんなこと言ってると、私が読んじゃうよ?」
「構わないよ」
平然と言うものだから引くに引けなくなって、手紙の封をハサミでゆっくりと開けた。
しかしそこまでで手を止めた。
「やっぱ止めとく。アンタ宛だもの。ラブレターだとしたら他人が読むべきものじゃない」
無理矢理、峰岸に手紙を読ませようと試みる。
仕方ないな、という表情で手紙を手に取った峰岸は、
「……まりこ、」
切なげに呟いた。
静止した峰岸を私はただ黙って見ていた。
たかが手紙1通なのに、とても嫌な予感がしたんだ。