世界で一番似ている赤色
フードコートには、カレーや牛タン、パスタや洋食など、美味しそうな店がたくさん並んでいた。
なぜか川瀬くんと同じ店に並び、うどんを買って席についた。
「びっくりした。急にどうしたの?」
「ごめん。知ってる人見つけたから」
「……それって、誰?」
いただきますをして、割りばしをぱちんと裂く。
早速食べようとしたが、川瀬くんが疑わしそうな目をしたため、はしを置いた。
「昔の知り合い。人違いだったんだけどね。あはは」
触れられたくなくて、笑ってごまかした。
しかし、彼は「綾ちゃん」と低い声を出し、わたしをにらんだ。
その態度からは怒りがにじんでいた。
付き合っているんだし、川瀬くんには言っておいた方がいいかもしれない。
わたしの過去、そして今の環境を。
「早く食べないと、伸びちゃうよ」
彼にそう伝え、うどんを一本すすってから。
「わたしの家、結構複雑なの、知ってる?」
「え……」
わたしは川瀬くんに家族の話をすることにした。
小学生の頃、親が離婚したこと。お父さんとお兄ちゃんと生き別れになったこと。
中学生になってお母さんが再婚したこと、転校したこと、新しいお父さんと妹ができたこと。
川瀬くんは気まずそうな表情になる。
伸びてコシが失われたうどんをすすり、わたしは続けた。
「さっき、生き別れのお兄ちゃんに似てる人がいて。本物だと勘違いして追いかけちゃった。驚かせてゴメンね」
「でも……さっきの綾ちゃんの様子、あれ、明らかにおかしかったよ」
あんなに必死に追いかけるものなのか。5年以上前に生き別れになった兄を。
きっと彼はそんな疑問を持ったのだろう。
「川瀬くんにはわからないよ。だって1人っ子でしょ?」
そう伝え、この話題をシャットダウンさせた。
彼はわたしをかわいそうな子に思ったのか、それからも手をつないで優しく接してくれた。