世界で一番似ている赤色


フードコートには、カレーや牛タン、パスタや洋食など、美味しそうな店がたくさん並んでいた。


なぜか川瀬くんと同じ店に並び、うどんを買って席についた。



「びっくりした。急にどうしたの?」


「ごめん。知ってる人見つけたから」


「……それって、誰?」



いただきますをして、割りばしをぱちんと裂く。


早速食べようとしたが、川瀬くんが疑わしそうな目をしたため、はしを置いた。



「昔の知り合い。人違いだったんだけどね。あはは」



触れられたくなくて、笑ってごまかした。


しかし、彼は「綾ちゃん」と低い声を出し、わたしをにらんだ。


その態度からは怒りがにじんでいた。



付き合っているんだし、川瀬くんには言っておいた方がいいかもしれない。


わたしの過去、そして今の環境を。



「早く食べないと、伸びちゃうよ」



彼にそう伝え、うどんを一本すすってから。



「わたしの家、結構複雑なの、知ってる?」


「え……」



わたしは川瀬くんに家族の話をすることにした。



小学生の頃、親が離婚したこと。お父さんとお兄ちゃんと生き別れになったこと。


中学生になってお母さんが再婚したこと、転校したこと、新しいお父さんと妹ができたこと。



川瀬くんは気まずそうな表情になる。


伸びてコシが失われたうどんをすすり、わたしは続けた。



「さっき、生き別れのお兄ちゃんに似てる人がいて。本物だと勘違いして追いかけちゃった。驚かせてゴメンね」


「でも……さっきの綾ちゃんの様子、あれ、明らかにおかしかったよ」



あんなに必死に追いかけるものなのか。5年以上前に生き別れになった兄を。


きっと彼はそんな疑問を持ったのだろう。



「川瀬くんにはわからないよ。だって1人っ子でしょ?」



そう伝え、この話題をシャットダウンさせた。


彼はわたしをかわいそうな子に思ったのか、それからも手をつないで優しく接してくれた。

< 124 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop