世界で一番似ている赤色
☆
次の日、川瀬くんは一度もわたしに話しかけてこなかった。
良かった、無事別れることができたらしい。
すっきりとした別れじゃなかったけれど、
「ねー綾ちゃん、これ怖い?」
「それオバケじゃなくて白塗りモノマネみたい! あはは!」
文化祭の準備が本格化してきたし、
「綾ちゃん器用だね!」
「そんなことないよ~」
朱里ちゃんが所属している演劇部の小道具づくりにも参加して、忙しさのあまり、川瀬くんのことを考えているヒマはなかった。
学校を出た頃にはあたりは暗くなっていた。
朱里ちゃんは居残りで練習するらしく、1人で帰路についた。
お腹がすいたため、駅までの近道コースを進む。
人通りは少ない。時々自転車に追い越されるくらい。
駅の逆側へショートカットできる狭いトンネルに入った。
すぐ後ろに人の気配があった。
わたしと同じルートで駅へ向かうらしい。
2人分の足音がトンネルの両壁にぶつかり合う。
コツ、コツ、……。
突然、もう1つの足音がけたたましく響いた。