世界で一番似ている赤色
お母さんには文化祭の準備で遅くなると連絡してある。
友達とご飯食べてくる、と追加で送った。
「海外行ったって、嘘だったんだ」
お水が入ったコップをゆらゆら揺らし、優にぃをじっと見つめた。
彼は悪びれもせず、まあね、と答えた。
全く動揺は見せてこない。もやもやして、テーブルの下、彼の靴をつんと蹴った。
「いて。あ、父さんは本当にインドネシア行ってる。俺だけ残った。高校辞めたくなかったし」
嘘をついた理由は聞かないでおいた。理由は分かっているから。
わたしと会わないようにするためだ。
優にぃには優にぃなりの決心があったんだ。
なのに、再び、わたしたちは出会ってしまった。
運命なんてかっこいい言葉で彩るようなもんじゃない。
ただの偶然、そして、紛れもない現実だ。
「え。お父さんだけ行ってるってことは、優にぃは今……」
「あの家で1人で暮らしてる。週1くらいでばーちゃんが来て、掃除とかご飯とかやってくれるけど」
「そっか。おばあちゃんか。元気かな」
お父さん方のおばあちゃん。わたしも小さい頃何度か会った。
料理は野菜ものばかりで苦手だったけれど、優しくて好きだった。