世界で一番似ている赤色
歩行者信号が点滅している。
一足早く、彼は足を止めた。わたしも彼の隣に並んだ。
走って渡る人たちから取り残されるわたしたち。
「それもあるけど、その……抱き合ってたじゃん。お前ら」
目の前を車がびゅんびゅん通り抜け、エンジンの臭いに包まれる。
わたしは乱れた前髪を直してから。
「そっか。見ちゃったんだ」とつぶやいた。
あの日以来、大和くんとゆっくり話す機会はなかった。
文化祭の準備をしている時も、どこかぎこちない態度で接された。
今日はすっきりとした秋晴れで、いつもより空が広く見える。
朝のまぶしさに目をやり、光をまぶたに閉じ込める。
「今、わたしにお兄ちゃんはいないよ」
「は?」
目をゆっくり開き、大和くんにピントを合わせた。
「だから、大和くんがお兄ちゃんみたいなもんだよ」
妹みたいって言ってくれたこと、嬉しかった。
大和くんは大和くんなりにわたしのことを大切に思ってくれている。
歩行者信号が青になった。
「あの人は、わたしの好きな人」
そうつぶやき、わたしは横断歩道を渡り始めた。
不思議と足取りは軽く、涼しい風に背中が押される感じがした。