世界で一番似ている赤色


「俺、このままフリーターなるのかなって思ったけど、やっぱりちゃんとしたいって思って、先生とか父さんに相談して、いろいろ頑張って」



優にぃは立ち上がり、ズボンについた砂をぱっぱと払った。


わたしは座ったまま、彼の言葉を待つ。



雲の隙間から日の光が漏れ、優にぃを優しく照らした。



「就職決まった」


「ええっ? 本当?」



わたしも立ち上がる。


そういえば、優にぃは髪が短くなった。ニット帽のせいで今は分かりづらいけれど。



「これで俺も、いつかは父さんくらい稼げるようになるかなぁ」


「できるよ! 優なら!」


「うん、綾がいれば頑張れる気がする」



海からの風にスカートをなびかせ、彼のもとへ駆け寄った。


そのまま右足を踏み込み、思いっきり飛び込んだ。



「わっ! どした?」



慌てつつも、彼はわたしを抱きとめてくれる。



「じゃあわたしが夜ご飯作りに行く」


「それもっと頑張れそうかも」



えへへ~、と照れながら、わたしは一歩、彼から離れた。



想像したのは、仕事から帰ってくる優にぃの姿。



ご飯の支度をしていたら、バタン、と玄関のドアが開く。


スーツか作業着姿の優にぃが疲れた顔で帰ってきて、


わたしは小走りで彼のもとに向かって。



「優、おかえり。今日もお仕事お疲れ様♡」



笑顔でそう伝え、ぺこりとお辞儀。



優にぃはぷっと笑いながらも、「綾、ただいま」とままごとに付き合ってくれた。



「早速だけど、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」


「…………」


「わ・た・し?」



自分を指さし、上目遣いで彼を見つめた。


ぱちぱちとまばたきをしてアピールした。が、彼はあきれた表情になった。



急に世界が、砂浜にいる今――現実に戻された。

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