世界で一番似ている赤色


ズックの音を鳴らし、走って黒板へと近づいた。



貼られていたのは、わたしと優にぃの、


駅で笑い合っている写真、手をつないでいる写真、抱き合っている写真。



息が上手くできなくなる。


今が現実なのか夢なのか、分からないほど。



ただ、すっと意識が今に戻った。



ざわつくクラスメイトの奥、教室の真ん中の席、


ニヤリと笑みを向ける、川瀬くんの姿だけがはっきりと見えたから。



「……っ!」



駆け寄り一発ぶん殴ってやろうと思ったが。


誰かに腕が捕まれ、止められた。



「おい」


「離してよ!」



振り返ると、怖い顔で首を振る大和くんがいた。


ちょうど今、登校してきたらしい。



大和くんは「とりあえず落ち着け」と言い、黒板消しを手にした。



乱暴な文字が、薄くなり、消えていく。


その間にわたしは貼られた写真をはがした。



わたしの味方をする大和くんにも視線が集まる。


でも彼は全く気にする様子はなかった。



片付けが終ると同時に先生が教室に入ってきて、何事もなくHRが始まった。


スマホが震える。川瀬くんからのラインだった。



『俺をダマした罰だ。壊してやる』



もう一度、スマホが震えた。


お母さんからのラインだった。



『綾、話があるの。今日何時に帰ってくる?』



とうとう一番知られたくない人に気づかれてしまったらしい。


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