世界で一番似ている赤色
「お母さん、わたし、家族は絶対壊さないよ。澄花ちゃんと豊さんと上手くやっていく。このまま成績保っていい大学にも行く。いい子でいる。優のこと以外は全部我慢する。だから……」
高い破裂音とともに、頬に衝撃が走った。
どうやらお母さんに殴られたらしい。
「……つっ」
「ちょっ!」
頬を手で押さえる。じんじん痛む。
優にぃが立ち上がった瞬間、お母さんも席を立った。
「これ以上会うようなら、綾、あんたへのお金の援助は一切しないよ。よく考えなさい」
「…………」
じわりと涙がにじむ。泣くな。泣くな。
何も言い返せないでいると、
「自分の思い通りにならないものは、必要ないってことっすか」
と優にぃの低い声がした。
お母さんが一瞬、息を飲んだのが分かった。
しかし、静かに優にぃへ言葉を放った。
「あなた、あの人の若い時に似てきたわね。でも、私と綾は新しい人生を歩んでるの。お願いだからもう二度と関わらないで。
言っとくけど、あの人……あなたのお父さんにも連絡入れておいたから」
お母さんは優にぃと目を合わせないまま、ファミレスを出て行った。
まわりのお客さんは、視線を合わせないよう、チラチラとわたしたちを見てくる。
しばらくすると、みんな自分たちの会話に戻っていった。
「おまたせしましたー」
ハンバーグセットとミートドリアが運ばれてきた。
わたしも、優にぃも手を付けることができなかった。