世界で一番似ている赤色
4
☆
「ただいま」
家に帰ると、お母さんはいなかった。
今日は残業ということになっているらしい。
豊さんも出張中で帰ってくるのは週末だ。
リビングでは、澄花ちゃんが1人、ご飯を食べていた。
わたしの顔を見るなり、気まずそうに食のスピードを速めた。
「ごちそうさま。宿題やらなきゃ!」
「待って」
逃げようとした彼女を止め、食卓に座らせた。
正面にわたしも座る。
「澄花ちゃんは、川瀬くんが好きなの?」
直球で聞いた。澄花ちゃんの瞳が揺らいだ。
「ごめんなさい……お母さんに勧められて家庭教師やってもらう予定だったから、連絡先交換してて……」
「そっか。おどされたわけじゃないんだね。姉の秘密ばらせ! って」
小さな子どもに語りかけるような口調で、優しく言葉を投げかける。
川瀬くんを上手く処理できなかったわたしが悪い。
だから、澄花ちゃんを責めるつもりはない。
空気を呼んだのか、彼女はポツリと言葉をこぼしてくれた。
「呼び出されて、写真のこの人知ってる? って聞かれた」
「で、答えたんだ」
「ごめんなさい……だって、川瀬さんの頼みだから断れなくて……だって好きだから」
うるうると瞳を震わせてから、下を向く澄花ちゃん。
今まで全く男の子の気配はなかった。
きっと初恋なんだろうな。
「頑張って! 川瀬くんいい人だから。わたし、お姉ちゃんとして応援してるよ」
澄花ちゃんに思いっきり笑顔を向けた。
あんな男子好きになって、本当どうしようもない子、と思いながら。