世界で一番似ている赤色
ジャージャーと水が流れる音を台所に響かせる。
だけど、廊下で2人が話している声ははっきりと聞こえた。
お父さんのそういうツメの甘い所、嫌いじゃなかった。
「お前は来年社会人になる。でも、今は高校生だ。綾ちゃんはなおさらまだ若い。母さんは大げさなこと言っていたが、俺は本当にそうなる可能性もあると思っている」
「それは俺もちゃんと考えてる。その上で綾を大切にする覚悟はある」
「そうか……お前も俺の息子だが、綾も俺の娘だ。傷つけるようなことをしたら……」
「父さんみたいな失敗するわけないでしょ。失敗した家族さんざん見せられて育ったんだから」
ゴスッ、と鈍い音がした。
優にぃはお父さんに殴られたらしい。いてっ、と軽い悲鳴が聞こえた。
お父さんは、わたしと優にぃの関係を疑いつつも、わたしたちを信じようとしてくれている。
心がずきずき傷んだけれど、お父さんを悲しませたくはない。
だから、これでいいんだ。
「ごめんなさい……」
目に涙がたまり、こぼれないようぬぐいながら、ひたすら皿をスポンジでこすった。
洗い物を終えると、2人がリビングに戻ってきた。
しかし、お父さんは「はぁ、たくさん食ったら眠くなってきた。優、綾ちゃんを駅までちゃんと送るんだぞ」と言い、ふらふらと部屋に入っていった。