世界で一番似ている赤色
最後の封筒を開く。
「あ……」
一瞬、時間が止まったような気がした。
送り主は、"前原 優"。
鼓動が早まる。思い出す。胸が痛む。
慌てて便箋をたたみ、封筒に戻そうとしたが。
「つっ!」
ちくりとした痛みが体を巡った。
紙の端っこと人差し指がこすれ合ってしまったらしい。
指の先にできたのは、1センチほどの切れ込み。
ゆっくりと赤色があふれ出し、細かな粒ができる。
このままじゃグローブをはめられないため、急いで指を口に含んだ。
血は鉄の味がすると聞いたことはあるけれど、何も感じなかった。
その代わり喉の奥が熱くなり、涙腺が緩んだ。
「……っ、はぁ、はぁ」
どうしてこんなにも胸が切なくなるのだろう。
いっそ、逃げ出してしまおうか。
いや、もう終わったことだ。
他人じゃない私たちが、気がつけば惹かれ合って恋をして。
環境の変化とともに気持ちがすれ違っていき、別れた。それだけのこと。
なのに、新しい恋人ができてからも、何度も思い出し、胸を突き刺してきた。
まわりの人が何と言おうと、これから家庭を築く身だとしても、
私はその恋を一生、忘れることができない。
運命という大それた言葉は似合わない、
きっとこの世界にありふれている、自然な恋。
『世界で一番似ている赤色』