世界で一番似ている赤色
3
☆
それからも何度か優にぃと会った。
電車で少し遠い所にいったり、公園で話したり、川沿いを歩いたり。
それまでは色々遊べるような街を選んでいたけれど、落ち着いた場所に行くのもそれはそれで楽しかった。
優にぃとゆっくり時間を過ごすことができた。
夏が近づいてきたある昼休み。
「ねぇ、綾ちゃんのこと、サーヤちゃんって呼んでいい?」
クラスでよく話す友達2人が、わたしに笑いかけてきた。
突然、新たな呼び方をされ、びっくりしてしまう。
「隣のクラスにも彩ちゃんって子いるじゃん。間違えないよう、こっちの綾ちゃんは苗字と合体させてサーヤちゃん」
わたしのフルネームは坂口綾。それで『さあや』→『サーヤ』とのこと。
確かに、体育の時間とかで『彩ちゃん』という声が聞こえると、わたしのことかと一瞬ビビることがある。
こそばゆさの奥から、嬉しさが漏れてきた。
あだ名をつけられたのは初めてだ。
この友達2人は、教室移動や休み時間によく絡んでくれる。
ありがたい反面、1人でいることが多いわたしに同情しているだけじゃないか、と思うこともあった。
または、クラスの上位の子たちに何も言えない同士でグループになっただけ、みたいな。
わたしも心を開いているわけではないから、表面的な話しかしたことがない。
冷めた目で見ていたことに、申し訳なさを感じた。
「実はうちら、綾ちゃんが最近明るくなったね、って話してたんだ」
「え……」
わたしが一瞬、固まると、
「あ、別に暗かったって言いたいわけじゃなくて……! ごめん!」
と慌てて謝られた。
2人ともわたしに対して過剰に気を遣ってくる。
それは、わたしがクラスメイトに心を開いていないから、だと思う。
「わたしも2人のことあだ名で呼びたい。何て呼んだらいい?」
そう伝えると、2人はニッコリ笑い、わたしたちの間で使うあだ名を考え始めた。
わたし、明るくなったのかな。
もしそうだとしたら、きっと優にぃのおかげだ。