世界で一番似ている赤色
優にぃのサンダルの音が、次第にゆっくりになる。
ランニング中の男女や自転車に次々と追い越される。
駅までの道がもっと長かったらいいのに、なんて。優にぃも思ってるのかな。
干してかわいたロングスカートが、はずむように揺れた。
「なんか、今日優にぃともっと近づけた感じする」
「そっか。俺も」
「優にぃもつらいことあったらわたしを頼っていいよ」
そう伝えると、優にぃはぱちくりと目を見開く。
そして、「綾のくせに上から目線すぎ」と言い、口元に手を当てクスクス笑った。
むかつく! またわたしのことバカにしてる!
「っていうかねー優にぃわたしのこと子ども扱いしすぎ。わたしだってもう中3だよ?」
「だって綾は綾だし」
「どういう意味? それ!」
歩行者信号が赤になる。
立ち止まり、プンスカと1人怒るわたし。
「…………」
あれ。珍しく優にぃは何も反応しない。
わたしの隣で、流れる車を眺めているだけ。
こういう時はぷっと笑うか、わたしをなだめてくるのに。
「優にぃ?」
背伸びして、優にぃをのぞきこむ。
すると、彼は表情を無くしたまま、ぼそりとこう言った。
「……だったらその呼び方やめて」
「え」
「名前だけで呼んでよ」