世界で一番似ている赤色
「いい感じに撮れた……」
エレベーターはゆっくり地上へと近づいていく。
駅前通りには人がいっぱい行き交っていて、日常へと戻されていくよう。
もうすぐ1階だ。
スマホ画面から視線を移し、優にぃを見上げた。
その瞬間だった。
「…………」
唇にやわらかい感触がした。
ぼとり、とスマホが床へ落ちた。
――え? 今、一体何が起きているの?
唇が離れる。
優にぃは切なげな様子でわたしを見つめている。
ふわっと心が浮かび上がるような感覚がするほど、鼓動が熱くきざむ。
「え。今、ちょ……っ!」
混乱のあまり、目をカッと見開いてしまうわたし。
対する優にぃは我に返った様子で一歩離れ、ドアの方を向いた。
ポーンと音が鳴り、エレベーターが開く。慌ててスマホを拾い上げる。
先に優にぃはエレベーターを降り、
「俺、父さんに頼まれたもの買い忘れたから。じゃあ、ここで」
と言って、スタスタと人混みの中へ消えていった。