世界で一番似ている赤色
☆
「綾、座りなさい」
今日は夜ご飯いらない、と連絡をしていたが、帰るなり怖い顔のお母さんに迎えられた。
「今日、何してたの?」
「朱里ちゃんと一緒に……」
「違うでしょ。正直に言いなさい」
「だから……」
「澄花が見たって言ってたのよ。綾が男の人と手をつないでいたって」
お母さんは怖い顔で次々言葉をまくしたててくる。
目の前の出来事なのに、まるで映像をみているかのよう。
「綾、聞いてるの?」
「いいじゃん。わたしだってデートくらいしたいよ。お母さんだってわたしに内緒で豊さんと仲良くなってたんでしょ?」
「……は!?」
ひるんだ顔になるお母さん。
わたしが言い返してくるとは思わなかったんだろう。
――そっか。誰と一緒にいたかまでは知らないんだ。
そのことにほっとするほど、わたしは余裕だった。
でも、心が強くなったわけじゃない。シャットダウンのスイッチを入れただけ。
だって、もう優にぃと会っちゃいけない。彼への想いはなかったことにしなきゃいけない。
「彼は、前の中学の友達。進路の相談されただけ。手はつないでない。人いっぱいだったから澄花ちゃんが勘違いしたんじゃない?」
わたしは落ち着いた声で嘘を発した。
台所からはぐつぐつと煮物の音が聞こえる。
澄花ちゃんは自分の部屋にいるらしい。豊さんは出かけているのか、いる気配はない。