世界で一番似ている赤色





「綾、座りなさい」



今日は夜ご飯いらない、と連絡をしていたが、帰るなり怖い顔のお母さんに迎えられた。



「今日、何してたの?」


「朱里ちゃんと一緒に……」


「違うでしょ。正直に言いなさい」


「だから……」


「澄花が見たって言ってたのよ。綾が男の人と手をつないでいたって」



お母さんは怖い顔で次々言葉をまくしたててくる。


目の前の出来事なのに、まるで映像をみているかのよう。



「綾、聞いてるの?」


「いいじゃん。わたしだってデートくらいしたいよ。お母さんだってわたしに内緒で豊さんと仲良くなってたんでしょ?」


「……は!?」



ひるんだ顔になるお母さん。


わたしが言い返してくるとは思わなかったんだろう。



――そっか。誰と一緒にいたかまでは知らないんだ。



そのことにほっとするほど、わたしは余裕だった。


でも、心が強くなったわけじゃない。シャットダウンのスイッチを入れただけ。



だって、もう優にぃと会っちゃいけない。彼への想いはなかったことにしなきゃいけない。



「彼は、前の中学の友達。進路の相談されただけ。手はつないでない。人いっぱいだったから澄花ちゃんが勘違いしたんじゃない?」



わたしは落ち着いた声で嘘を発した。


台所からはぐつぐつと煮物の音が聞こえる。


澄花ちゃんは自分の部屋にいるらしい。豊さんは出かけているのか、いる気配はない。

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