俺を護るとは上出来だ~新米女性刑事×ベテラン部下~
桐谷が立ちあがって窓の側を見る。
「はめごろしなのに、隙間が空いてる」
嵯峨はおもむろに立てると、上着を脱いで、投げてよこした。
「ちょっと辺りを見て来る」
確かに肌寒いと思っていた。
何も言わずにその上着を肩にかける。
袖も丈も長い。
「なんだかんだ言って、カッコつけなんだからなあ。絶対自分も寒いよ。ワイシャツ一枚なんて」
桐谷は、その様を見てふてくされる。
三咲は、ただ小さく笑った。
しばらくして、嵯峨が帰ってくるなり、
「おい、小雨になってきた。少し歩けば小道から出られるがどうする?」
「小雨ってちょと降ってるんでしょ?」
桐谷は眉間に皴を寄せた。
三咲は精一杯胸を張って答える。
「ここで皆と待ちます。応援が来ることは分かっていますし、無理に危険な目に遭いに行くことはありません」
「ぷっ、何? 突然しっかりしちゃって……」
桐谷が吹き出しながら続ける。
「服とセリフが合ってない」
「そ、そんな笑わなくていいでしょ!!」
嵯峨はどすんと同じところに座り込むと、再び煙草に火をつけた。
それを合図に、全員元のように座り込む。
「桐谷さんは人のことばっか言ってるけど、自分はどうなんですか?」
「何? 俺? 俺の事は経歴で知ってるでしょ」
半分暗い顔になる。そういう話を聞きたかったわけではないので、三咲はぎくりとした。
「……彼女とかのことですよ」
「いるわけないじゃん。愛生ちゃん、俺達がどんな生活してるか知らないの?」
半分怒っているのが分かって、口から言葉が出なくなる。
「い、や…」
「署と官舎の往復。それだけ。みんな、山本さんの奥さんみたいなとこ見てるからさ。ブレーキが効くんだよ」
「………」
途端に視線が下がってしまう。
「多いんだよ。特に公安刑事の彼女とかが標的になるの。まあだから、署内で作るのが一番いんだろうけど、なかなか……」
ちら、と嵯峨を見た。
だが、何故が嵯峨も無表情を決めこんでいる。
「結局署内でも同じって事も分かったし」
桐谷は半分笑ったが、すぐにやめた。
「……、……」
「愛生ちゃんは、結婚したくなったらここ辞めて主婦になればいいけど、俺達はなかなかね」
「…………」
そうだ。この人達は前科者だ。そういう所でも一線も引いておかなければいけないかもしれない。
「一緒に死んでくれる女がいたらなあ……」
桐谷は宙を仰ぎ見たが、セリフだけ聞く限りでは相当危ない。
「一緒に死にたい女がいれば、ここを辞めて外へ行けばいい」
思いもよらず、嵯峨が口を開いた。
だが桐谷は逆に笑って、
「そんな女、出会うわけないでしょ」
その笑顔はもちろん引きつっていて。
「飽きるほど抱いたけど、俺に合う女なんていねーんすよ」
飽きるほどか……確かにパッと見はジャニーズみたいで可愛い感じだ。
「いると思います!」
多分きっといると、その瞬間、確かにそう思って言い切った。
「何よ急に」
桐谷は笑いながらも続ける。
「ほんと、愛生ちゃんの勘だけはアテにできねーわ」
言いながら、桐谷は、その日見せたこともないほどの笑顔で笑った。