彼女の距離感に困る
視界の端にチラつく、ラッピングされた小さな箱。
あの女が置いていったものだ。
そういえば、全くこの箱の話題には触れずに自然と置いていったな。
こちらには拒否権もなかったのか。
わざわざここに持ってきて置いていったのだから……あちらの間違いでなければ、『贈り物』ということになる。
毎年、あの女には、必要ないと言っている。
それでも食わせようとしてくる。
かといって捨てるつもりもない。
ただひとつ、生まれた感情は『困惑』だ。
一度PCの画面から離れ、頭を抱えた。
はぁ……どうしてくれる。
あの後、取り返しに来る様子もなかった為、あの箱を家に持ち帰ってきた。
間違えや何かがあったらあちらが気付いて戻ってくるだろう。
それがないのは、これが今年の分だ、という意味合いで渡されたもの……としか、考えられない。
去年のように、チョコレートを口の中に突っ込んでくるような素振りもなく、あの後大人しかった。
つまり今年の分はこれだということ……恐らく、だが。
イマイチ不安は拭えない。
中身は見ていないが、おそらく菓子だろう、そういうイベントの日なのは把握している。
それを机の上に置き、膝を折って座り、眺める。
あの女は一体なにを考えているのか、この中には一体なにが入っているのか、あの女の行動が一切読めない、俺のこの緊張と少しの息苦しさの意味も、何もかもがわからない。
手を出していいものなのだろうか。
この箱を…開けてもいいものなのだろうか…。
去年は確か……口を開けと言われ、反論をするために口を開いてしまったところに、ほろ苦いものを口に押し込まれたのだった。
贈り物のようなこの形式は……初めてなのだ。
だから困惑する。
この中身も……贈り物として渡された意味にも。
この小さな箱を凝視し始めてから何分経っただろうか、入っているものはおそらく菓子だ、分かっている。
わかっているのに開けられない。
肩に力を入れすぎて、疲れてきた。
なぜだ?
中身がわかっているのなら、すぐにでも開ければいいのではないかと、頭では理解している。
しかし、いいのだろうか? こんなものを…こんな気持ちを伝えるイベントで俺に渡してしまって……間違いではないのだろうか?
思考回路がループしている、これでは結論が出ない。
こういう時は、勢いというものが、大事なのだ、きっと……。
開けてしまおう。
箱に手を伸ばすと、綺麗にラッピングされたリボンが指に触れた。
俺にはとても似合わない赤色のリボン、クリーム色の包装紙、この色が似合わなすぎて、業務中もこの箱に手を付けられずにいた。
視界に入りつつも見えない振りをしていた。
しかし……今思えば、視界の端から失くしたくはなかったのかもしれない。
恥ずかしいのならば、仕舞ってしまえばよかった。
しかし、きっと……これでも喜んでしまっていたのだ。
浮かれた気持ちが、あったのだろう。
今更気付いた自分の気持ちに、ふっと笑みが漏れる。
あの女のこと──
そう気付いてしまったことで、この小さな箱を開ける決意をした。
赤いリボンを解き、包装紙を丁寧に開いていく。
まず見えたものは、メッセージカード。
それから、チョコレートが数個、入っていた。
手作り、なのだろうか?
形が綺麗すぎて、わからない。