彼女の距離感に困る
──あれから1ヶ月
街は赤い色を白に変えて、またチョコレート菓子を売り賑わっていた。
今度は、貰ったこちら側がお返しをするイベントだということは知っている。
そう、前回受け取ってしまった菓子の礼を、今度はこちらからしなくてはならない。
『お返しくれるなら、来月〇〇公園で待ってる』
メッセージカードに書いてあったのは、その言葉のみだった。
〇〇公園……そこは、母校の近くの公園で、高校の帰り道によく目にしていた人気の少ない小さな公園だ。
よく、公園の中にいたあの女とも目が合っていた。
彼女はブランコに乗り、よく空を見上げているのに、通りかかる時にはこちらと視線が合っていた。
数秒、視線を絡ませ、どちらともなく離し帰宅路を進む。
小さなそれを、数え切れない程、毎日のように続けていた、あの頃。
理由などわからない、彼女とはよく目を合わせていた。
会話なんてなくとも、目を合わせて、そして穏やかな気持ちになっていた。
彼女の気持ちはわからない。
ただ、俺は彼女と関わることが、心地よかった。
今は前より目を合わせることを避けてしまっているが……。
それだけだ。
「あぁ、来てくれたの」
仕事を終えて公園へ着くと、先に定時で上がっていた彼女は既にそこに居た。
以前のように、ブランコに乗り、空を眺める彼女。
学生の頃の彼女と、重なる。
「ねぇ。いつもさ、目合ってたよね」
そう、彼女がこの話題に触れるのは、初めてだった。
高校の頃の、放課後の数秒間、ただ目を合わせるだけの日課。
「あぁ……」
「なんで目が合ってたんだろうって、考えたことあった?」
なぜ目が、合っていたか……?
それを言われると、確かに不自然なのだ。
なぜなら……自分は他人と目を合わせることを好んでいないのであり、意識しなければ目が合うことは少ない。
自覚はしていたが……。
「貴方は……人とよく目を合わせる人間だと解釈していたが」
「じゃあ、なんで普段目を合わせない君とも、目が合ってたんでしょうね」
「……」
なぜ……だろうか。