彼女の距離感に困る
すっと、離れていく、首に置かれていたその手。
その距離が開くことが、嫌だと感じた。
もう少し待てと、つい思わずその手首を掴んでいた。
直後、無意識の自分の失態にハッとする。
「……あ、いや、その」
無意識の自分の行為に疑問を感じる。
何故引き止めている?
彼女は茫然と、その接触している手を見たまま、固まってしまった。
「あ、いや、わ……」
悪い、とそう言いかけてやめた。
この手を、離したくなかったのだ。
悪い、と言ってしまえば離さなくてはならない。
それが心に小さな引っ掛かりをつくっていた。
「……どうやら」
「……?え?」
「どうやら俺は、この手を離したくない……らしい……」
「……は?」
なにをどう話せばいいのか、今自分がどんな気持ちなのか、どうしてこんな行動に出てしまっているのか、それはわからない。
だが、無意識下での行動というものには常に意味がある。
理解が追い付いていないだけであり、恐らくこの行動にも意味があるのだろう。
なにより、確かなことが一つあるのだ。
「俺も、君のことを知りたいと、望んでいる……」
ぽかんと口を開いたまま、こちらの目をじっと見つめる彼女もまた、この行動には予想外だったようだ。
「先程、君の言葉を聞いてから確信したばかりだが……」
同じ気持ちでいて欲しいと、彼女は言った。
だが既に、彼女から発せられる言葉の節々で、自分とリンクしている箇所がある。
彼女の気持ちがいつからなのか、どれくらいのものなのか、自分には測ることはできない。
よって、あまり期待されてしまっても、未来のことは自分でもわからない。
しかし、この気持ちが育たないまま終わるという可能性は、極めて低いと結論付けた。
なぜなら、以前から彼女のことを……。
「今思えば、君を視界に入れることが多かった」
「え……ちょ、ま、待って」
「会社でも意識していることが多々あった。でも君は、男女関係なく関わっていき、その輪を広めていく。そんな君を尊敬している一方、なぜあの頃の君は公園で一人、空を見上げていたのだろうと、不思議に思っていた」
「……」
「君を知りたい。今は君の期待に応えられるかは正直わからない、だがそこは、ひとつひとつ、君に教えて頂くとしよう」
以前から彼女を気にかけていた。
それだけの理由だが、自分にとっては大きな理由だ。