彼女の距離感に困る
彼女は、唇を震わせて何かを耐えるようだった。
けれど、こくりとひとつ頷いたので、こちらも緊張の糸が緩む。
「座らないか?」
だいぶ今更なのだが、まだ渡していないものがある。
今日はそれを彼女に渡すために、この場に来たのだから。
この公園へ着いた時に彼女が座っていた、そのブランコへと彼女を促し、俺も隣に座る。
子供の頃にも遊んでいたことのある遊具がいくつもある。
このブランコも、こんなにも小さかったものなのかと、懐かしさが込み上げてくる。
座り心地は少々悪いが、なぜか彼女は高校時代からいつもこのブランコに乗り、空を眺めていた。
あの頃を思い出す為、俺の中でもこのブランコの印象は強く瞼の裏に焼き付いている。
ポケットに手を入れると、ここに来る直前に入れたプレゼントが手に触れる。
バレンタインの返しをすることは、今回が初めてであり、少なからず恐怖心が沸くが、きっと彼女は受け取ってくれることだろう。
メッセージカードには『お返しくれるなら』と書いてあったのだ、お返しをされても問題ないということだろう、頭ではわかっている。
けれどここまで渡すタイミングを逃してしまっていたため、少し渡しにくい。
いや、こうして考えている時間も意味のないものだろう、結局最後には渡すのだから。
そう意を決し、プレゼントを、ポケットから取り出す。
そして彼女の膝の上に、ぽんと乗せ……顔を反らしてしまった。
不思議がる彼女の気配を感じる。
「え……?あ、そうか」
視線を感じるが振り返ることはできない。
なぜ素直になれない……。
自分でも解らない。
がさごそ、包装紙の音が辺りに響き、予定外のことに気付く。
まさか、今、開けているのか……?
「これは……」
「ま、待て、もう開け――」
「ブレスレット……?」
目の前でプレゼントを開けられるのは、なんとむず痒く、恥ずかしいものなのか。