彼女の距離感に困る
「この公園で」
そう話し始めた彼女に、耳を傾ける。
「ここで初めてあなたと目が合った日、あの日は友達と喧嘩してしまった後だったのよ」
「君でも喧嘩をするのか」
「仲がいい人とはよく喧嘩するのよ。上辺だけの付き合いならそんなこと起こさないけど」
では、これから距離を縮める予定である俺とも、喧嘩をする可能性があるということか。
想像がつかない。
だがそんな未来も悪くないのだろう、彼女が心を許している相手だという証拠になるのなら。
「空を見てるとね、ぼーっとしていられたの。きっと疲れていたのね。後悔したり、でもまだ許せない気持ちもあって、気付いたら夕方になっていたの」
初めて彼女と目を合わせた日、それは確かに夕方だった。
夕日に照らされ空を眺めている、当時は他と同じく単にクラスメイトの一員であると認知していた彼女への意識が、あの日から変わったことを、今でも覚えている。
夕日に照らされた彼女を綺麗だと、こんなにも似合う色なのかと、数秒間目がとらわれていた。
あの日からクラスでも彼女を意識していたことは否めないし、あれから放課後毎日のようにここに来て目が合う彼女を他のクラスメイトと同じようには見れなくなっていた。
しかし、自ら話しかける勇気は、なかった。
「あなたが公園の横の道を通りかかって、初めて目が合って、これでも驚いていたのよ。いつも周りに興味のなさそうな目してるじゃない。それがあの日はしっかり目が合って」
それは目が合った後、しばらく固まっていたからだ……。
「あの人、まっすぐな人なんだなぁと思ったの。何にでも一直線で、きっと周りが見えていないだけなんだって思ったわ」
彼女から見た俺は、そう見えてていたようで、それがなんだか自分の中にはない感覚で、不思議だ。
「その目に私が映ったのかと思うと、こんなひねくれている私が映っちゃいけないんじゃないかと、こんなごちゃごちゃ考えてる時の顔なんかじゃなくて、すっきりした表情が出来ているときの私を見てほしいと、リベンジしたいと思ったのよ。勝手にだけどね」
彼女は空を見上げた。
あの頃とは違って夕日も暮れた、満天の夜空を。