桜恋色
別れ際まで心配そうだった二人と別れた後、



駅のトイレで化粧直しをして、



わたしは真っ直ぐと椎名くんの待つ河川敷へと向かう。



「桜重さんっ」



そこで椎名くんは、いつもみたいにはにかんでわたしの名前を呼んでくれた。



「お待たせ……」



そんな椎名くんと目も合わせず俯いてるわたしを、椎名くんは怪訝そうに見下ろしている。




「椎名くん」


「はいっ」


「もう……わたしここに来ないから」



言い切ったわたしを、椎名くんはどんな顔で見つめていたんだろう……。



顔を上げれば溢れてしまいそうな涙を我慢して、わたしは声を出す。




震えてしまいそうになるのを堪えるのが精一杯。




「桜重さんっ!」




呼び止める椎名くんを振り切って、わたしはわき目もふらずアパートまで走った。






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