桜恋色
楽譜を届けてくれたお礼って名目で、



わたしたちは近くの河川敷で、トランペットのレッスンをすることにした。




最近トランペットを始めたばかりだっていうだけあって、




「その音は1と3のポジションで……」



まだまだ音を出すのが精一杯。



それでも、



ポジションを間違えながら一生懸命、先生に貰った練習譜を吹く姿に、



教えてる方もつい熱が入る。



「そこは2と3でっ」



「あの……」



「えっ?」



「近い……ですっ」



トランペットを構える椎名くんの指に、気がつけば手を添えて運指を促していた。



「あはは……ごめんねぇ~」



すぐさま椎名くんから手と身を離し、


笑って誤魔化す……。



はぁ……。



完全に厚かましいオバサン状態だな、わたし。



わたしたちの間に気まずい沈黙と、肌寒い風が吹き抜ける。



「あの……それ、なんて読むんですか?」



沈黙を破ってくれたのは、椎名くんだった。



わたしのトランペットケースに貼られていた「桜重」のシールを指差している。
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