桜恋色
「さえ。わたしの名前」


「へぇ……変わってますね」



なんか合ってます。



なんて付け加えて、椎名くんはちょっとはにかむ。



「椎名くんは? 下の名前は?」



聞かれたから聞き返してみれば、




ポケットからペンを取り出して、手のひらに何やら書き始める。



「これです。読めますか?」



そう言って出された手のひらには、「温和」の二文字。



思わず首を傾げるわたしに、



「これで、はるかって読むんです」



今までクラス替えの度に聞かれました。


って続ける椎名くんに、



「わたしも!」



なんて同意したことで意気投合。




空に一番星が浮かぶまでお喋りしたところで、



「俺、今日カテキョーの日なんで」



こう言って帰って行く椎名くんと、



明日もここで落ち合う約束をしてバイバイした。



すっかり暗くなった帰り道。



「家庭教師か……」



懐かしいなぁ……。



家庭教師、塾、受験生なんて単語がいちいち懐かしい。




セーラー服に身を包んでいた時代を懐かしく思いながら、



わたしは明日を楽しみにしていた。
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