予告動画



錆びている鎖の音と、夏風に揺れる木々から聞こえてくるセミの声が交互に耳に届く。


……くしゃり。なにかを踏んだ気がして足元を見ると、セミの脱け殻が粉々になっていた。



脱け殻だから、痛みはない。でも、いい気分はしない。


形あるものを壊してしまった罪悪感。セミの脱け殻を踏んだだけでこんな気持ちになるのに、人が死ぬと分かっていて動画を再生している人は、一体どんなことを考えているのだろう。


分からない。分かりたくもない。



「……ねえ、前園さんは、誰が動画を見てると思う?」


畑さんが亡くなって、私の中でなにかがぷつりと切れた感覚がした。


予告動画は、幾田さんの呪い。

それは彼女を死に追いこんだ私たちへの因果応報であり、完全な悪ではない。


それでも、クラスメイトたちが残虐に殺されていくのは耐えられないし、なにか解決する方法はないかと模索し続けてきた。


でも、今は完全に悪と呼べる人がいる。


防げるはずのものを壊して、平気な顔をして、クラスメイトの動画を再生している人物。


幾田さんのことは、許せないと思ったことはない。

けれど、動画を再生してる人は許せない。絶対に。



「疑いはじめたらみんな怪しく見えるよ。でも、少なからず木崎さんは動画を再生してる人じゃない。そうでしょ?」

「うん」


私は違う。でも、それを証明するものはない。私に限らず他の人たちも。

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