植物女
ですが破局はすぐに訪れました。
私がどうしても彼の肉体を受け入れることができなかったのです。
荒い息づかい、汗ばみ湿った肌、普段の彼とは別人のようで、それはまるで獰猛な猛獣にのしかかられているようで、恐ろしくてなりませんでした。
彼の肌の開いた毛穴から嫌な匂いがしました。
舌は太ったナメクジのようでした。
その日耐えられなくなった私は思いっきり彼を突き飛ばしました。
実はそれが最初ではありませんでした。
もう何度も同じことを私と彼は繰り返していました。
「いい歳してかまととぶるなよ。植物がしゃべる訳ないだろ、顔と体だけが取り柄のぱーぷりん女のくせに」
そう毒づく彼の唾が私の頬に当たりました。
それをそっとぬぐいました。
涙は出ませんでした。
黙って身支度をすると彼の部屋を出ました。
外の空気がとても軽く感じました。
それで気づいたのです。
彼の部屋は絶対的存在で満ちていました。
気づくと森のような大きな公園の前にいました。
私は迷わず公園内に入りました。
両腕を大きく広げ深呼吸しながら歩いていると、誰かに話しかけられました。
「ねぇねぇ聞いてよ」
振り向くとまだ若くて美しいメスのクワの木でした。
私が彼女の横にあるベンチに腰かけると木の葉を揺らして彼女は喜びました。
おしゃべりな木でした。
道を挟んで彼女の前にいるオスのクワの木からしつこくされているけど、彼女は遠くに見えるクワの木が前から好きなのだと言います。
「彼の方が大きくて逞しくて素敵なの」
そう言われると目の前のオスのクワの木はいまいち幹ががっちりとしておらず、枝葉の具合も良くありません。
「確かに目の前の彼はあんまりイケてないわねぇ」
私は人間の男性の外見の良し悪しは分かりませんでしたが、植物の方はよく分かりました。