コーヒーに砂糖とミルクを注ぐ時
「……柊零(ひいらぎれい)くん?」

震える声で問いかける。

「久しぶり、雪」

はにかみながら、彼は笑った。その笑顔はあの時と変わらない。



私は零くんを椅子に座らせ、コーヒーを淹れた。コーヒーを淹れている間も、手の震えが止まらなかった。

零くんは高校の同級生。一年生の頃、図書委員に一緒になったのがきっかけで仲良くなった。

私は彼のことが好きだった。しかし、彼は一年生の終わり頃から幼なじみの女の子と付き合い始め、私の恋はあっけなく散った。

高校を卒業してから、零くんは有名な大学に入り、有名な会社に就職した。エリート社員として活躍しているらしい。

零くんと会うのは卒業以来だ。

「元気にしてた?」

コーヒーの入ったカップを零くんの前に置くと、零くんは微笑みながら言った。

「結婚するって聞いてさ。会いたくなったんだ」

甘い思い出が蘇りそうになり、私は零くんから顔を背ける。お客さんに対して失礼だと思ったけど、もう振り向くことはできない。
< 10 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop