コーヒーに砂糖とミルクを注ぐ時
私は口を開き、止める。自分が何をしようとしていたか考え、ありえないと自分に言い聞かせる。

私の心はもう重くて苦い。コーヒーにどれだけ砂糖やミルクを入れても、苦味が変わることなどなかった。そもそも砂糖やミルクがなかったのかもしれない。

「やっぱり迷惑だったかな。こんな忙しい時に来ちゃって……」

零くんがコーヒーを飲み、カップをゆっくり置く。

「そんなこと、ない……」

私は小さく言った。

「あっ!そうだ!」

零くんはかばんを開け、中から一冊の本を出し、テーブルに置いた。表紙には探偵の絵と、不思議の国のアリスやピーターパンが描かれている。

「これ結婚のお祝いにあげるよ。『ファンタジー探偵と学園祭』っていうミステリー小説!雪が好きそうだなって思ってさ」

「これ……私に……?」

ずっと失っていたある思いがあふれそうになる。あの時のような空気がとてもーーー。

しばらく話したあと、零くんは帰っていった。テーブルの上には、零くんがくれた本。

あの時から、私の全ては止まってしまった。好きという感情も失い、書店に行っても本を買うことなんてなかった。
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