コーヒーに砂糖とミルクを注ぐ時
いつか話した会話。自分たちの好きな本のジャンル。まだ覚えていてくれたなんて……。

ポタリと音がして、ミルクが一滴、コーヒーに入った。でも、一滴ではまだ苦いまま。



掃除を済ませ、私はいつもより軽い足取りで家へと向かう。カフェから少し離れた住宅街。小さなマンションの一室が私の家。

高校卒業を機に一人暮らしを始めた。両親から離れたかった。自由を体験したかったのだ。

その部屋とも、近々お別れだ。引っ越しをし、結婚する相手と新居に住むことになっている。全て相手や親の意思であって、私の意思ではない。

玄関のドアに鍵をさし、ゆっくりとドアを開ける。ここに帰ってくるたびに自由だと思った。居心地がよかった。

短い廊下を歩きリビングに入り、電気をつける。見慣れた部屋ももういられない。

深いため息が自然とこぼれた。さっきから自分の考えていることが、よくわからない。感情を失っているはずなのに、それを超える何かがある。

「……本当に、このままでいいの?」
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