コーヒーに砂糖とミルクを注ぐ時

「…サイン、あげないのか？」

ブラックコーヒーを飲みながら、同じ席に座る男性の一人が女性に訊ねた。

「嬉しいけど、今はプライベートだし……」

「椿の初主演の劇、とってもよかったよ！心を掴まれた人は多いんじゃないかな？」

もう一人の男性が女性に言う。女性は嬉しそうに微笑み、「ありがとう」と言った。

あの三人はこのカフェの常連客だ。よくカフェに来てはコーヒーや紅茶を飲んだり、ケーキを食べたりしてくれる。

コーヒーを飲んでいるのは、松井翔さん。二十四歳で大学生だというのに、会社を立ち上げ社長をしている。

女性は白井椿さん。有名な劇団の女優で、同じ席にいるもう一人の男性ともうすぐ結婚をするらしい。

椿さんと結婚する坂本空さん。大学生だが、小説家として活躍している人だ。

三人とも輝いていて、私の胸が少し痛んだ気がした。もう傷つくことなんて、決してないはずなのに。

「それにしてもあの二人遅いね〜」

椿さんがため息をつく。空さんが言った。

「まあ、あの二人はもうお父さんとお母さんだからね。色々、大変だと思うよ」