おやすみピーターパン
嘘つきピーター・パン
それから私は、毎日のようにネバーランドに足を運んだ。
ピーターくんは大抵子供たちの遊びにつきあっているか、隙を見て自分の部屋で本を読んでいる。二郎おじさんは診療所があるから、昼間に子供たちの面倒を見るのは自動的に最年長のピーターくんらしい。
昼過ぎに小さい子供たちがお昼寝をすると、2番目に年長の瑠花ちゃんに子供たちを任せて、晴れていれば私を連れて森をぶらぶら。そこで他愛の話をして、5時頃にはやっぱりネバーランドに戻るのだ。
その中でピーターくんは、色々なことを話してくれた。
前は東京に住んでいて、小学校5年の時にこの島に来たこと。来月で年齢は中学生二年生になっているが、ネバーランドにきて以来学校には通っていないこと。
本を読むのが好きなこと、歌を歌うのが得意なこと、でも料理は大の苦手なこと。
私も少しずつ自分の話をした。
両親は別居中で、ママは厳しくて窮屈な人だということ。高校は楽しかったけどクラスのカースト制度が面倒だったこと。
大人になりたくない、ということ。
「ふうも俺と同じだ。ね、ティンク」
指先に止まるティンクにまたキスを贈りながら、ピーターくんはそう呟いた。
不思議なことに、私たちを出会わせた不思議な色の蝶はたびたび私たちの前に現れた。
私と出会う前からピーターくんに懐いていたその蝶を、彼はティンクと呼んですっかり可愛がっていた。
「でもふうは、なんで大人になりたくないの?」
「なんでって…………だって悪いことばかりだもん。汚れるし、子供の気持ちが分からなくなる」
「そうだな、失うものばかりかもね」
「そう言うピーターくんは?なんで?」
この間はすっかりはぐらかされてしまったけれど、やっぱり気になる。
ピーターくんがティンクに目配せをすると、ティンクはピーターくんの指から羽ばたいていく。そして、彼は私の目をみないままに言った。
「俺は大人が嫌いなわけじゃないんだ。二郎おじさんも好きだし、母さんも好き」
「え、お母さん居るの??」
「あはは、酷いな。ネバーランドに居るからって、皆親無しって訳ではないんだよ?」
「そうなのっ?」
知らなかった。でも、親が居るのならどうして?
そういう目をしていたらしい。ピーターくんは、問わずとも答えてくれた。
「居るのは母さんだけだよ。父さんは俺の小さい頃に”不運な事故”で亡くなった。そして、俺の肺が弱いように、母さんは心が丈夫ではなかったんだ。だから、ふたりでは暮らせなくなった」
だからネバーランドに来たのだと 本当になんでもないことのように語るから、どんな顔したらいいかさっぱり分からなかった。
何を言っていいかも分からなくて、言葉に詰まっていると、別に何か言われたいわけではないと言うように首を振って、ピーターくんは立ち上がった。
「帰ろっか」