おやすみピーターパン

程なくして雨は止んで、私たちはまた歩き出した。ピーターくんは少し眠そうで、帰り道はあんまり喋らなかった。

ネバーランドに着くと、異例なことに門は閉まっていなくて、その門の左から右へ、二郎おじさんがうろうろと落ち着きなく歩き回っていた。

「空!」

二郎おじさんはピーターくんの姿を見つけるなり、血相を変えて抱きついてきた。

「ちょ、二郎先生くるしい」

「可哀想になぁ、雨に振られちまったのか。今日は早く風呂に入って、あったかくして寝るんだぞ」

そう言って着ていたジャケットをピーターくんの肩にかけてやり、早く中に入るよう促した。

14歳の男の子相手にこれは、ちょっと過保護すぎやしないかと思うが、彼も満更でもない様子だった。父親の居ない彼にとって、二郎おじさんが父のような存在なのだろうか。

「風羽も、早く帰ってあったまれよー」

ついでのように掛けられた言葉にむっとした顔をすれば、二郎おじさんはけたけたと笑った。ピーターくんに、少し似ている。


「お前最近、ほぼ毎日空と遊んでるな」

「いいじゃん、春休みなんだから」

「いいけど、なんだ、お前ら。付き合ってんのか」

「はぁ?なにそれ、違うし」


そんなんじゃない。確かに距離が近いことは自覚がある。だけど少なくとも、彼の方にその気はない。

上手く言えないが、そうゆう世界に生きる人じゃない気がする。


「なんだ、違うのか」


二郎おじさんは残念そうにわざとらしいため息をつい
た。


「アイツに恋を教えてくれると思ったのになぁ」


そして独り言みたいにぽつりと呟いた。

どういう意味と問う前に、二郎おじさんはひらりと手を振って踵を返していた。今夜は夕食に少し遅れるとだけ告げて、背中を向ける。


恋を教えて、とはいったいどう言うことだろう。結局二郎おじさんは何が言いたかったのか。

ピーターくんの趣旨の読めない話をする癖は、二郎おじさん譲りだったのか。

私は仕方なしにネバーランドを後にする。






その日、二郎おじさんは結局家に戻って来なかった。今日は京子さんがネバーランドに泊まる当番のはずなのに。

その京子さんも、夜中に何やら電話を受けて、ぱたぱたと慌てて出掛けて行ったようだった。





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