おやすみピーターパン
「風羽ちゃん。ちょっとお茶でも飲んでゆっくりしない?」
強ばった私の肩をとんと軽く叩いて、そう声をかけてくれたのは京子さん。
まだ暫くは目が覚めないからと、私を待合室のソファーに座らせ、紅茶を出してくれる。そして自分のカップにも同じように紅茶を注ぎ、隣に腰をかけた。
いつのまにか廊下には明かりがついていて、診察時間が始まっていた。
「京子さん、私こんな所で紅茶飲んでて患者さんの邪魔にならない?」
「大丈夫よ。患者さんなんて滅多に来ないもの。通院のご老人が月に何度か薬をもらいに来るくらいよ」
「ええ……それって大丈夫なの?経営…」
「あら、病院が暇なのはとても幸せなことよ?」
本当にそう思っているのだろう。京子さんはいかにも優しくていいひと、という柔らかい笑みを浮べた。
京子さんは本当に優しくて、だけどしっかりとした強い女性だ。だからこそこんな不便な島で、若い夫婦二人でクリニックなんて続けられるのだ。ネバーランドだってそうだ。あの場所には従業員なんか居ない。たった二人で毎日回してる。
「……京子さんは今の暮らし、辛いなぁとは思わないの?」
なんとなく尋ねてみた。ただ、私には到底無理だって思ったから。
だって、本当にこの島には何にもない。娯楽どころか生活するだけでも不便極まりないのに。確かに空気はいいけれど、そんな理由だけではなかなか暮らそうとは思えない環境だ。