おやすみピーターパン
昼下がり。
ようやく目が覚めたらしいピーターくんに、昼食を持っていくように京子さんに頼まれた。食べれなかったらそれでもいいと言って渡されたそれは、どろどろの八分粥で味も薄そうであまり美味しそうじゃなかった。
両手が塞がっていたので、肘で器用に戸を引く。
目が覚めた。とは聞いていたけれど、彼はごろんと上半身をベットを投げ出したままで、斗を引く音にゆるりと瞼を持ち上げた。
「ふう」
呼ばれたその声は酷く掠れている。息苦しそうに胸を抑えるその仕草がすごく不安になる。
それを振り払うように、私は慌てて口を開いた。
「お昼、食べなって。京子さんが!」
「………強制?」
「え?いや、食べれなかったら無理しなくてもいいって…」
「……ならごめん…無理」
それを言うだけでもピーターくんは息を切らした。朝よりは熱が引いたに見えたが、代わりに青白い顔色にぞっとする。
たかが風邪で、こんなに酷くなるものだろうか。
「まぁ、座って」
彼は寝転がったまま器用にベッドサイドの椅子を引いてくれる。いつもより小さな声。きっと近くに寄らないと上手く聞こえないから、促されるままに座った。
彼は特に何を話すわけでもなく、私の言葉を待っているふうだった。だから、とてつもなく唐突に、一欠片も纏まってない胸の中の言葉を口にした。
「病気。たいしたことないなんて嘘なんでしょう?」
彼は目を見開いた。
唐突すぎたとは自分でも思う。だけど私の中では、唐突でもなんでもないのだ。
だって、真っ白すぎる肌で。いつ会ってもほとんどパジャマみたいなぺらぺらしたスウェットで。いつでも寝込めそうな格好で。長い間学校を休学して空気のいい島にわざわざ居場所を移して。風邪を引いただけでここまで容体を悪くする。
それだけ材料が集まれば、医療知識なんてまるでない私にでも分かってしまう。
たいしたことないなんて、そんなはずない。
無意識に俯いていた顔を上げた。彼は起こした私の目線の先で、困ったような、バツが悪いような、そんなよくわからない顔をした。
「一気読みはおすすめしないって言ったのに」
そう苦い笑顔を浮かべた。
「うん、そうだよ」
観念したようにまた淡々と、言葉を並べた。