おやすみピーターパン
「ごめんな、別に騙すつもりはなかったんだ。ただふうが…あんまり目を輝かせるからさ。まるで……なにか素敵な物語でも読んでいるみたいに」
ごめん、と彼はまた呟いた。
私はなんかもう、何もかもが追いつかなかった。
死ぬ、と言われた。言葉の意味は分かる、勿論。だけどそれをピーターくんと重ねることが上手くできない。
童話の中を生きるような雰囲気の彼に、いきなり死ぬとか言われても頭が追いつかない。
「でもね、ふう。俺の生きる道は、生きてきた世界は、童話の中みたいに愉快じゃないし、ハッピーエンドでもないんだ」
彼はそう言って、静かに目を閉じた。
その瞼の裏には彼の言う、生きる道や生きてきた世界が映っているのだろうか。
「だから、………っ」
言いかけて、彼は喉が詰まったように咳き込みだした。
「ピーターくん!」
思わず身を乗り出してその背中に手を回して、慣れない手付きで摩る。じんわりと伝わる思っていたよりも高い体温。ひゅうひゅうとイヤな音が吹き抜ける、酷い咳。
すごく焦る。だってあんなことを告げられたすぐ後で、こんな。
じわり、と視界が涙で霞んだ。