おやすみピーターパン
タイガー・リリーとピーター・パン
【風羽 side】
4月に入り、私は島の高校に通うことになった。この島には高校はひとつしか無いらしく、それ故にこの高校に落ちる人はほとんど居ないらしい。
「橋田 風羽です、東京から来ました。えっと……よろしくお願いします」
教壇の前でそう自己紹介をすると、次の休み時間にはクラスメイトに囲まれていた。
東京、というワードに惹かれたらしいクラスメイトたちは色々と質問を投げてくれたが、これがまぁものすごく訛っていて。とゆうか聞いたことないような言葉を話していて。話を理解するだけで精一杯の登校初日だった。
そう話して聞かせると、目の前の少年は幼い子供みたいに楽しそうに笑った。
「へえ、楽しそう」
「楽しんでる余裕なんてなかったよ!」
鋭く突っ込んで見せれば、彼はますます可笑しそうに声を上げて笑う。そんなに笑ったら胸に響くんじゃないかとこっちが不安になるほどだ。
ピーターくんの風邪は、五日目にしてようやく良くなってきていた。一昨日からある程度熱は下がって寝床もクリニックからネバーランドに戻ってきたが、酷い咳と微熱だけがどうしても長引いてしまうらしく、まだ二郎先生から外出許可をくれない。でもこうして椅子に座って本を読む程度には良くなってきていた。
だから私はこうして、毎日ピーターくんの部屋を訪れては他愛もない話をする。
コンコン、と不意にノックの音が転がった。
「はーい」
ピーターくんが間延びした返事を返すと、ガチャリと勢い良くドアが開いた。
「由梨」
ひょこりと顔を出したのは、前に初めて私がネバーランドに来た時にピーターくんの部屋まで案内してくれた女の子。
何度もネバーランドに足を運ぶうちに何度か顔を合わせたが、最初の日以来話したことは無い。
「空兄、まだ具合悪い?」
不安げに尋ねる彼女に、ピーターくんは首を振った。
「だいぶ良いよ。どうした?宿題?」
「ううん、違うの。ピアノ、教えて欲しくて」
「ピアノ?」
「私今日クラスの自己紹介で、何か言わなきゃと思ってピアノが得意ですって言っちゃって……。そしたら今度なんか弾いてみてって言われちゃって……」
「あはは、うん。いーよ」
言って、ピーターくんは本を閉じて椅子から降りる。
「ピーターくんてピアノ弾けるの?」
思わず尋ねれば、ピーターくんはまあね、と得意げに微笑んだ。
「東京に居た頃に少しだけ、母さんに教わってたんだ」
「お母さんに?」
「うん。なんか特技が欲しいって言い出した俺に、母さんがピアノを買ってくれたんだ」
そう嬉しそうに口角を上げるピーターくんはほんの少しだけどいつもより子供っぽく見えた。
4月に入り、私は島の高校に通うことになった。この島には高校はひとつしか無いらしく、それ故にこの高校に落ちる人はほとんど居ないらしい。
「橋田 風羽です、東京から来ました。えっと……よろしくお願いします」
教壇の前でそう自己紹介をすると、次の休み時間にはクラスメイトに囲まれていた。
東京、というワードに惹かれたらしいクラスメイトたちは色々と質問を投げてくれたが、これがまぁものすごく訛っていて。とゆうか聞いたことないような言葉を話していて。話を理解するだけで精一杯の登校初日だった。
そう話して聞かせると、目の前の少年は幼い子供みたいに楽しそうに笑った。
「へえ、楽しそう」
「楽しんでる余裕なんてなかったよ!」
鋭く突っ込んで見せれば、彼はますます可笑しそうに声を上げて笑う。そんなに笑ったら胸に響くんじゃないかとこっちが不安になるほどだ。
ピーターくんの風邪は、五日目にしてようやく良くなってきていた。一昨日からある程度熱は下がって寝床もクリニックからネバーランドに戻ってきたが、酷い咳と微熱だけがどうしても長引いてしまうらしく、まだ二郎先生から外出許可をくれない。でもこうして椅子に座って本を読む程度には良くなってきていた。
だから私はこうして、毎日ピーターくんの部屋を訪れては他愛もない話をする。
コンコン、と不意にノックの音が転がった。
「はーい」
ピーターくんが間延びした返事を返すと、ガチャリと勢い良くドアが開いた。
「由梨」
ひょこりと顔を出したのは、前に初めて私がネバーランドに来た時にピーターくんの部屋まで案内してくれた女の子。
何度もネバーランドに足を運ぶうちに何度か顔を合わせたが、最初の日以来話したことは無い。
「空兄、まだ具合悪い?」
不安げに尋ねる彼女に、ピーターくんは首を振った。
「だいぶ良いよ。どうした?宿題?」
「ううん、違うの。ピアノ、教えて欲しくて」
「ピアノ?」
「私今日クラスの自己紹介で、何か言わなきゃと思ってピアノが得意ですって言っちゃって……。そしたら今度なんか弾いてみてって言われちゃって……」
「あはは、うん。いーよ」
言って、ピーターくんは本を閉じて椅子から降りる。
「ピーターくんてピアノ弾けるの?」
思わず尋ねれば、ピーターくんはまあね、と得意げに微笑んだ。
「東京に居た頃に少しだけ、母さんに教わってたんだ」
「お母さんに?」
「うん。なんか特技が欲しいって言い出した俺に、母さんがピアノを買ってくれたんだ」
そう嬉しそうに口角を上げるピーターくんはほんの少しだけどいつもより子供っぽく見えた。