おやすみピーターパン
ピーターくんと由梨ちゃんの後を付いて行ってたどり着いたのは、建物の奥の方にあるまだ足を踏み入れたことのない部屋。その部屋は大きな黒いグランドピアノ以外にはあまり物が置かれていなくて、窓もなくて少し狭くて暗い。
最後に部屋に入った私が無意識に部屋の扉を閉めると、すかさず由梨ちゃんが扉を開けた。
「空気、悪くなるから」
何故、と訪ねる間も無くに由梨ちゃんは少し不機嫌そう淡々と言う。それを見たピーターくんは「大丈夫だから」と困ったように笑った。
なんというか、前から薄々感じてはいたけれど……私は、彼女に嫌われているのだろうか。心做しか態度が冷たいように思う。
少し気まずくなった空気を取り払うように、ピーターくんは少し大きめの音を立てて鍵盤に触れた。細い指先が器用に鍵盤の上を走って、繊細かつ透明な音色を立てる。知らない曲だったけれど、私は思わずおー、と声を上げて感嘆した。
「それで?なにが弾きたいの」
「なにか……皆が聞いてテンションが上がるやつ」
「由梨が弾きたいと思った曲を弾いたらいいのに」
ピーターくんがそう言うと、由梨ちゃんはバツが悪そうな顔をしながらもこくりと頷いた。