おやすみピーターパン
手始めに、家の真裏に広がる森へと入った。
そこにはやはり木と土しかなくて。迷子になっては困ると、スマートフォンの電波が圏外になってはいないかしきりに確認しながら、奥へ奥へと歩みを進めた。
熊とかイノシシとか、そうゆう危険な獣はあまり居ないらしいと聞いた。それが年間を通してあまり暑くはならない気候のせいなのか、もとから居ないのかは知らないが、ここの気候は人間にとっても快適と言えるものらしかった。現に、3月という春の今も、暖かいというよりはほんの少し寒い。
しかし広い。そして見渡す限り木ばかりだ。東京生まれ東京育ちの筋金入りの都会っ子の私には、酷くもの珍しい光景ではあるが、こうも囲まれては正直見飽きる。
これなら家から1番近いコンビニでも探した方がましだ、と引き返そうと、踵を返した。その時だった。
きらり、と視界の端でなにかが光った。
その光に振り返れば、それはさっきまで自分が進もうとしていた方角に、ゆっくりと瞬くように飛び舞う。
蝶だった。
しかしそれは非常に珍しいであろう翡翠のような色の羽をちらちらとはためかせて、光るような鱗粉を振り撒く。
それはまるで、絵本の中の妖精のように。
「ま、待って!!」
思わず声をあげて追いかける。
なんとなく。ただなんとなく、どこかへ連れていってくれるような気がしたのだ。