おやすみピーターパン


空兄について行って島に住むのは簡単なことだった。

元々私の引き取り手で揉めてた親戚は、最初こそ世間体がどうこう言ったが、正直なところは願ったり叶ったりなのだろう、強く押せば簡単に動いた。

そうして私達はネバーランドに来た。


他にも何人かの子供たちが居て、その中で空兄は一番歳上で、私はその次に歳上だった。だから2人で協力して小さい子たちの面倒を見た。それはすごく、楽しいことだった。

お母さんのこともお父さんのことも、思い出さない日が時々来るようになった。私は幸せだった。何もかも順調だった。

コンプレックスの顔の火傷も、新しい学校のみんなは驚いたりはしたけれどからかったりはしなかったし、二郎先生も、二郎先生の奥さんも優しいし。


ただひとつだけ納得の行かないことと言えば、空兄の病気が、いつまでたっても治らないということだ。


生まれついての病気で、治すには長い時間が必要だということ。とにかく安静にするのが大切なこと。咳をするけれど、伝染るような病気ではないこと。私が教えて貰えたのはそれだけだった。

空兄の生活はとにかく穏やかだった。子供たちと遊ぶ時も、運動になる事はしないし、せっかく島に来たのに海には一回も入らなかった。学校でも座って本を読んだりおしゃべりをしていることが多いみたいだ。


「…………つまんない」


思わずぼやくと、向かい側のソファーに座る空兄は首を傾げた。

「どうして?」

「だって空兄、一緒に海にも行ってくれないんだもん普通に元気そうに見えるのに」

「それは俺がちゃんと先生のいいつけを守ってるからでしょ」

「でも、つまんない。ねえ海に行こうよ。居てくれるだけでいいから!貝殻とか拾ってていいから!」

唇を尖らせると、空兄はくすりと笑って、いいよ行こう、と目を細めた。私はすごく嬉しくて、目を輝かせた。


これが、最悪の事態に繋がるなんて知らずに。



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