おやすみピーターパン
【風羽side】




由梨ちゃんの話の中で、ずっとここへ来たばかりの小さなピーターくんを思い浮かべていた。

その頃から相変わらずふわふわとして、のんびりした性格だったみたいだけど、それでも今よりは少し子供に思えた。

きっと、由梨ちゃんを助けたことだけじゃなくて、ここへ来て積み上げた思い出や経験の全てが今のピーターくんを作っているんだ。


「なんだかすっごく、愛しいね」


思わずそんな言葉を口にしていた。

由梨ちゃんは眉をひそめて「は?」と怪訝そうな顔をする。



「なんですか急に、愛しいって」

「急に思ったの。ほら…ピーターくんはよく自分の人生を物語に例えるんだけどね。私が知ってるのは物語の中盤からだから、私の知らない物語を知ってる由梨ちゃんが羨ましい」

「……なんか、空兄に影響されてません?その変な言い回し」

「あはは、そうかもしれないね。……とどのつまりはね、話を聞いただけで愛しいと思えるんだもん。私も小さな頃のピーターくんに会ってみたかったなって」

「………私からしたら、風羽さんの方が羨ましいですよ」


少しだけ寂しそうな顔をして、由梨ちゃんは俯いてしまった。


「………きっと、私じゃだめなんです。本当のこと話してくれないのも、仕方ないんです。空兄にとっては私はこれからもずっと、妹ですから」


「そんなこと…」


「でも、風羽さんならきっと違う」


確信を持った強かな口調だった。


「……どうして?」


「…私、空兄が泣いてるとこなんてみたことないんですよ?それなのに風羽さん、空兄が熱出したあの日、空兄を泣かしたでしょう。目が真っ赤でしたもん」

「そっそれは…」

「責めたいわけじゃないんです。私、嬉しくて。強がりの空兄が風羽さんの前では少しでも弱みを見せられるなら…嬉しい」

そう言う、風羽ちゃんこそ、泣きそうだった。


………そうかな。きっとまだまだピーターくんは、私に話せてないことたくさんあるよ。

根拠はないけど、分かるんだ。
彼が背負う、もっと大きな何かが。








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