おやすみピーターパン
自分の部屋に戻った由梨ちゃんと別れ、ピーターくんの部屋に戻ると、椅子に座って本を読んでいると思っていたピーターくんはベッドに寝転んでいて、珍しく部屋の小さなテレビが点いていた。
「本はもう良いの?」
話しかけられて初めて私の存在に気づいたようで、ピーターくんは私の方へ寝返りを打った。
「ふうおかえり。まだ続きだったけど、疲れちゃって」
「大丈夫?具合悪くなってない?」
「はは、なにそれ」
「だって寝てるから」
「こっちのが楽だったからだよ。ふうが帰ってくると思って待ってたんだ」
そう言ってピーターくんは寝転がったままおいでおいでと言うように手招きをする。素直に傍の椅子に座れば、子供みたいに嬉しそうな顔をした。
「由梨と何話してたの?」
「んー……女同士の話かな」
「恋バナとか?」
恋バナ、とは言えないけど……まあ似たようなものだろう。曖昧に頷けば、ピーターくんはふっと呆れたように笑った。
「恋バナってことは、俺の話してたでしょ」
「え?な、なんで?」
「だって由梨、俺のこと好きだから」
「…………へっ?」
なんでもないことのように言うピーターくんに、思わず取り繕うのを忘れてしまった。
「気付いてたの……?」
「んーまあね。俺鈍いけど、バカじゃないもん」
それは予想外だった。でもどうして?由梨ちゃんが分かりやすくアピールしてるのは、振り向いて欲しいからなのに。気付いていて気付かないふりするなんて。
「………どうしてなんにも言ってあげないの?由梨ちゃんに」
「だって、由梨もはっきりとは言ってないだろ。由梨は俺が気持ちに応えられないことが分かってるからなんにも言わないんだ。ならわざわざ傷つけたくはないよ」
「……由梨ちゃんの気持ちには、応えらないんだ?」
「うん。だって由梨は妹みたいなものだから」
…………あれ、なんだろう。
少しだけ喜んでる私がいる気がした。由梨ちゃんのこと嫌いなわけじゃないのに、どうして。
そんな心の底のもやもやに触れて、私は初めて、由梨ちゃんの恋を応援したいとは1度も思わなかったことに気づいた。
それって………もしかして。
「……ねえ」
まるで、私も由梨ちゃんと同じ…。
「ねえ、ピーターくん。それなら私は?」
………確かめたい。
「え?」
「由梨ちゃんが妹なら……私はピーターくんにとって…なに?」
……確かめたい。どう思ってるのピーターくん。
ピーターくんは少し戸惑ったような顔をして、徐ろにテレビを消した。しん、と静まり返る空間の中で、変な緊張感が高まる。
そしてまっすぐに、まっすぐに私を見詰める瞳。
「…ふうは…女の子だよ。出会った時からずっと」