おやすみピーターパン
ぶわわっと風が吹いたように、顔に熱が集まるのを感じた。思わず唇を噛む。
………馬鹿だ。馬鹿だ私は。
確かめたかったのはピーターくんの気持ちじゃなくて、私の気持ちだ。
女の子だ、とただそう言われただけでこんなにも胸が鳴る私の、ピーターくんに対する気持ち。
………好きだ。好きなんだ。私はピーターくんのことがきっと、好きなんだ。
自覚した途端に、なんだかすっぽりと胸に穴が空いたような喪失感を感じた。
だって、だってピーターくんは………ピーターくんの命には…。
「ふう」
ぐるぐる回る思考を遮るように、ピーターくんが私の名前を呼ぶ。
顔をあげて目が合った瞳が、あまりに色がなくて、私は息を呑んだ。
「ピーターく……」
「由梨の恋は、苦しいね」
「え……?」
「だって仮に俺が由梨をすきになっても、俺はすぐ死んじゃうだろ?」
自嘲を唇にうかべて、ピーターくんは目を細めた。
「ふうには、苦しい恋はして欲しくないな」
含みのある笑みだ。
拒まれた、とすぐに理解出来た。
きっと私が気付くより先に、彼はとっくに知っていたんだ。由梨ちゃんがピーターくんに寄せる想いと、私のピーターくんへの想いが、同じ色をしていたことに。
ピーターくんはきっと、恋愛をする気なんてないんだ。まあそうだとは思う。私が彼の立場で、二十歳まで生きられないと宣告されたら、きっと二度と恋愛はしないかもしれない。それは、相手を悲しませたくないっていう想いから来る、優しさで、きっと間違ってない。
でも、だからって。
………こんな拒み方はあんまりじゃないか。
「ピーターくんは…優しいけど冷たいよね」
冷たく。そうできるだけ冷たく言い放った。
正直腹が立っていた。
好きになられたら迷惑だ、ってそうハッキリ言えばいいじゃないか。それをこんなふうに、期待させて、自覚させた上で拒むなんて。そのやり方に腹が立っていた。
「…ふう」
「ごめん、今日はもう帰る」
ピーターくんの顔が見れない。逃げるように部屋を出ていこうとするけれど、ピーターくんはたった1度私の名前を呼んだだけで何も言わなかった。
ほら、やっぱり。
思ったより彼は冷たい。