おやすみピーターパン


狭い島というのは、実に情報がぐるんぐるんと円滑に回るらしい。彼が、「またすぐ会えるよ」と言った意味がすぐに分かった。ほんとうに、すぐだった。



「ああ?ピーターパンに会った?」


彼と会った翌朝。パパと二郎おじさんと京子さんと囲む朝食の席で、私は昨日の出来事をざっくりと話した。ピーターパンに会った、と伝えれば、二郎おじさんは はぁ?と顔を顰めた。


「うん。私より多分ちょっとだけ年下の男の子だよ。赤っぽい茶髪で肌の白い、ダル着の子。ネバーランドから来たとか言うからさ、ピーターパンくんて呼んでるの」

「ネバーランド……ああなんだお前、空に会ったのか」

「え?なに?そら?」

ピーターパンくんの特徴をつらつらと並べていると、二郎おじさんは「空」という一人の少年の名前を出した。

「そいつのことならよく知ってるよ、ネバーランドのこともな」

「えっ?二郎おじさんピーターパンくんと知り合いなの?!」

「ばーか。こんの狭い島で顔の知らない人間なんかいねーよ」

そんなこと言われても、そんなド田舎特有の感覚知るわけもない。なんたって、東京生まれ東京育ち。顔も名前も知らない人間と毎日すれ違って過ごす方が私にとっては常識なのだ。


「なんなら会わせてやろうか?」

「え、ほんとに??」

「どうせ次会う約束もロクにしてないんだろ。その代わり俺の仕事の手伝いをしてもらうぜ」

「え、二郎おじさんの仕事って確か……」

確か、二郎おじさんはこの島で唯一の医療施設である小さなクリニックを経営している、と聞いている。

クリニックなんかに私を連れて行っても、手伝えることなんてないと思うけど…………という意味を込めて二郎おじさんの顔を見つめると、二郎おじさんは違う違う、と笑った。

「クリニックじゃないぞ。風羽に手伝ってほしいのは、副業の方だ」

「副業?二郎おじさん副業なんてしてたの」

「離島のクリニックってのはとんと暇でね。ここからそう遠くないし、どうだ?来てみるか?」

「どこに?」

尋ねると、二郎おじさんはニヤリと笑って言った。





「ネバーランドだよ」




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