おやすみピーターパン


重たい木の扉の奥には、清潔感のある空間が広がっていた。

入ったすぐそこが子供たちの遊び場のようで、床に玩具が転がっている。

目付きが虚ろな子供。義足の子供。身体が機械と繋がっている子供。様々な事情がありそうな子供たちが、一緒になってもの珍しそうに私を見上げた。

「二郎先生、このお姉さんだれ?」

そう言って二郎おじさんの服の裾を引いたのは、中学生くらいの小柄な女の子。

彼女の”事情”は直ぐにわかった。顔の半分に、大きな爛れた火傷のあとがある。


「俺の甥っ子の風羽だ。空は居るか?」

「いるけど、自分の部屋に」

「空のお客さんなんだ。悪いけど由梨、案内してやってくれないか?」

「………いいけどぉ」

彼女は少しだけ不服そうな顔をしながら頷くと、ほらこっちよ、と無愛想に私の手を引く。

されるがままに付いていくと、彼女は廊下の一番奥の部屋の前で私の手を離した。

「空兄、お客さん」


扉を3回ほどノックして呼びかけるが、返事はない。

「留守かな?」

「いや、いるよ絶対」

「え?」

応答がないのに?

「後で文句言われないために一応ノックしただけ。返事が帰ってきたん試しがないもん」

そう言って彼女は中の人物に許可を取ることなく、勢いよく扉を開けた。



…………彼はいた。

ベッドと机と本しかない殺風景な部屋の真ん中で、彼は低い椅子に凭れて、本を読んでいた。

ゆっくりと瞬きをして、ようやく私たちの存在に気付く。


「……………ふう?」



きょとんとした顔で、彼は大きな瞳をさらに見開いた。

吸い込まれそうな瞳。間違いない、彼だ。


「ピーターパンくん」

そう呼べば、彼は見開いていた瞳を細めて、そのあだ名定置しちゃったの、と笑った。


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