Take me out~私を籠から出すのは強引部長?~
春熙のお母さんは私も苦手だった。
華道の家元の娘だからか、妙に厳格で。
「僕がつらいとき、傍にいて慰めてくれたのは恭佑(きょうすけ)と愛乃だけだった」
恭佑、とは私の兄のことだ。
小さいときから私たち三人はいつも一緒だった。
それこそ、悲しいときも楽しいときも。
「でも――恭佑は僕を置いていなくなったから」
ふっ、春熙が淋しそうに笑う。
兄は去年、父に――私たちにも相談なしに一流国立大学を中退し、姿を消した。
噂ではアメリカでコメディアンを目指して元気にやっているということだけど、連絡は一切ない。
「だからね、僕のことをわかってくれるのはもう、愛乃しかいないから。
愛乃は僕の命よりも大事な存在なんだ。
愛乃に危害を加えようとする奴は、――僕が許さない」
また春熙の顔から表情が消える。
硝子玉の虚ろな瞳の、真っ暗な底が見えないその奥。
それは――私の心に、消えない恐怖を植え付けた。
華道の家元の娘だからか、妙に厳格で。
「僕がつらいとき、傍にいて慰めてくれたのは恭佑(きょうすけ)と愛乃だけだった」
恭佑、とは私の兄のことだ。
小さいときから私たち三人はいつも一緒だった。
それこそ、悲しいときも楽しいときも。
「でも――恭佑は僕を置いていなくなったから」
ふっ、春熙が淋しそうに笑う。
兄は去年、父に――私たちにも相談なしに一流国立大学を中退し、姿を消した。
噂ではアメリカでコメディアンを目指して元気にやっているということだけど、連絡は一切ない。
「だからね、僕のことをわかってくれるのはもう、愛乃しかいないから。
愛乃は僕の命よりも大事な存在なんだ。
愛乃に危害を加えようとする奴は、――僕が許さない」
また春熙の顔から表情が消える。
硝子玉の虚ろな瞳の、真っ暗な底が見えないその奥。
それは――私の心に、消えない恐怖を植え付けた。