朝マヅメの語らい
「トータルすると安くはねえよなあ」
 髭でザラついたあごをさすりながら橋爪が唸っていると、背中に声がかかった。

「おはようございます」
 反射的にモニターを社内ネットワークに切り替える。橋爪はそれから振り返った。

軽く頭を下げてからデスクを回り込み、斜め向かいの席に落ち着いたのは、業務基幹システムの開発指導で出向してきている神長廉だ。

「釣りですか」
「まあな」

「いいですね」
 社交辞令か、神長はそれだけ言って微笑んだ。ラップトップPCの電源を入れ、キーボードを叩き始める。

暫くのあいだ、鋭い眼差しが真っ直ぐモニターに向けられていたが、用事がひと段落したのか、ふうと息を落とした。それから、

「今の時期0.6号がちょうどいいですよ」
 神長は唐突に呟いた。

「は?」
 一瞬何の話か理解できずに橋爪が眉根を寄せると、神長はモニターから顔を上げ、口元を綻ばせた。
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