朝マヅメの語らい
静まり返ったオフィスに、エレベーターの到着音が響いた。片手にビニール袋を提げた坂巻が戻ってきた。

「橋爪さん」
 何故か頬を緩ませている坂巻を、橋爪が訝しげに見上げていると、デスクの上に『れもん』という黄色いシールの貼られた白い物体が乗った。

「おお、これは!」
 橋爪は思わず声を上げた。会社最寄り駅から坂を上がったところにある、昭和十年創業の老舗和菓子屋の大福だ。

もち米百パーセントで作られたこだわりの皮と、瀬戸内産レモンのほのかな酸味が爽やかな、午後には売切れてしまうという人気商品だ。

「店はもう閉店してんだろ? なんだ、これどこで手に入れた」

「コンビニです。実は、レジにいつもの大福を持っていったら、店員の方に話しかけられて。ときどき買いにくるのを覚えていたみたいで、二ついただいたんです。『今日中に食べなきゃいけないし、買いすぎたから』って」
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