朝マヅメの語らい
「この時間だと、まいちゃんか。俺は相当常連だが、一度もそんなサービス受けたことねえぞ」

「たまたまだと思います。でもまあ、ラッキーでしたね」
 残業で買出しに来る坂巻に気があるのだろう。そうでなければ大量買いしても人に譲るはずがない。

洋菓子党の坂巻には、大福を抱え込んで食べる人間の気持ちはわからないかもしれないが、このレモン大福はそういう希少価値のある品なのだ。

 橋爪が大福に熱視線を送っていると、坂巻が袋の中からもうひとつ取り出して、デスクの上に並べた。

「よかったらこれもどうぞ」
「いいよ、それはお前食いな。その代わり、明日の会議よろしく」

「えっ。さすがにそれはちょっと無理があるかと。役職的にも、僕には権限がありませんし」

 戸惑う坂巻を横目に、橋爪はドキュメントの上に粉を散らしながら大福のフィルムを剥いた。
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